2010年6月29日火曜日

文化例外

文化例外cultural exceptionという概念について、wikipediaを引用します。一言で説明すると、グローバル経済から文化を隔離しようとする立場ということになります。

Cultural exception (French: l’exception culturelle) is a concept introduced by France in General Agreement on Tariffs and Trade (GATT) negotiations in 1993. It treats cultural exports differently than other traded goods because national cultures should be protected. It allowed France to maintain tariffs and quotas to protect its cultural market from other nation's cultural products, most notably American films and television.
France was granted cultural exception and in 2005, 65% of its film products were American imports, compared to 90% American imports in other European film markets.(NY Times, 2/5/2005, pg. 9B)
In October 2005, UNESCO's Convention on the Protection and Promotion of the Diversity of Cultural Expressions enshrined cultural exception as a method of protecting local cultures. Sponsored by France and Canada, the convention was passed 185-2, with four nations abstaining from voting. The notable naysayers were the United States and Japan.
The United States claims that cultural exception is a form of protectionism that harms global trade. In addition, it claims that cultural exception as outlined in the UNESCO convention allows for oppressive governments to suppress minority cultural voices. The film industry and other cultural industries in the United States are also against the concept of cultural exception, as it harms their export market, and have lobbied the United States to take its current position against cultural exception.
(文化例外は、1993年GATT交渉においてフランスにより導入された概念である。国家の文化が保護されるべきものであるために、文化的輸出品は他の貿易商品とは異なった扱いを受ける。これによりフランスは、自国の文化市場を他国の文化的製品から、特にアメリカの映画やテレビ番組から保護すべく、関税やクオータ制を主張することが可能となった。
フランスは文化例外を認められ、2005年には、他のヨーロッパ映画市場においてアメリカからの輸入品割合が90%であったのに対し、フランスの映画製品のうちのアメリカからの輸入品は65%となった。
2005年10月、UNESCOの「文化的表現の多様性の保護と促進に関する条約」は、局地的文化を保護する手段として文化例外を明記した。フランスとカナダの支援により、条約は185票対2票、棄権4票で可決された。特筆すべき反対国はアメリカおよび日本である。
アメリカは、文化例外をグローバルな貿易を阻害する保護貿易の一種であるとし、さらには、UNESCO条約により規定された文化例外は、圧政的諸政府が少数者の文化的な声を抑圧するのを可能にするものであると主張した。アメリカにおける映画産業界や他の文化産業界もまた、輸出市場を阻害するものとしての文化例外概念に反対し、文化例外に反対する現在の立場をとるよう政府に働きかけた。)



インターネットから入手した小畑理香さんという方の論文(「ヨーロッパ統合と視聴覚メディア」)がこの問題に言及しており、とても参考になりました。文化例外に対立する概念として、「文化的特殊性」というものがあり、それは文化的製品を他の製品と区別せず一様に GATS(サービス貿易一般協定)の対象とした上で、文化への特別な配慮を明記するものであるとのことです。

前述したように、フランスはこの後者(引用者注:文化例外)の立場をとっている。ウルグアイ・ラウンド当時、フランス文化大臣の職にあったジャック・トゥーボンは、ル・モンド紙への寄稿の中で自らの主張を明快に述べている。すなわち、視聴覚メディア産業は、経済的利益だけでなく「さまざまなかたちのヨーロッパのアイデンティティの生存に関わるものであ」り、放送クォータ制や制作に対する財政援助といった公的支援制度の維持は、「我々にとって自殺行為に等しい不均衡の出現を避けるために不可欠である」。したがって、フランス政府は、「交渉の成功という名の下に、重要な産業を犠牲にすることはできない」のである。
これらの2つの異なる主張は、第3章の終わりで指摘した問題と結びついている。すなわち、文化の論理と経済の論理のどちらを優先させるか、という問題である。フランスが主張する「文化的例外」が文化保護のために市場の原理を歪曲させることをも厭わないのに対し、イギリスらの主張する「文化的特殊性」は、文化に関わる製品をあくまで経済の論理のもとに置こうとする。つまり、これは、経済との関係において、文化をどう扱うかをめぐる意見の対立と捉えることができる。
さらに、ここでのフランスの主張が「ヨーロッパのアイデンティティ」を根拠としていることも注目される。これは、第1章で見たECとしての文化政策の根拠と共通している。ここに至って、「文化的例外」と「文化的特殊性」をめぐる対立は、「ヨーロッパ・アイデンティティの構築」と「域内文化産業の国際的競争力強化」(太字強調は引用者)というECによる文化政策の2つの目的とそれぞれ結びついたのである。つまり、ECが文化政策にコミットするための2つの根拠は、ここで相対立するものとして立ち現われてきたのである。
このような対立は、ウルグアイ・ラウンドの交渉にあたるEC委員会の立場を不安定なものにした。EC委員会の立場は「文化的例外」と「文化的特殊性」の間で揺れ、1993年1月以降は後者を採用するに至った。同様に、欧州議会の立場も揺れ動いた。欧州議会は、当初「文化的特殊性」を擁護していたが、1993年9月30日には「文化的例外」を決議したのである。


フランスはアメリカの文化的(経済的?)覇権に対抗する意図でECに協力していたために、ECの曖昧な態度はフランスに不信感を募らせることになったというのが小畑さんの理解です。 ここで「ヨーロッパ・アイデンティティの構築」と「域内文化産業の国際的競争力強化」ということが言われていますが、この二つはまさに僕がEuropeanaに見出したいと思っていた二つのものです(ただし前者の抽出作業が難航しています)。フランスが自国文化産業の保護を主張する際に「ヨーロッパ・アイデンティティ」に依拠するというのは確かに奇妙です。Europeanaが提供する資料の大半がフランスによるものであるだけに、小畑さんの記述は僕の関心と符合しています。

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